男役と娘役はどのように決まるの?

元宝塚歌劇団 桐生のぼる著書から抜粋しています。

宝塚歌劇団100年の「あるある」に学ぶ組織論として出版致しました。
楽しいエピソードの一つ一つをご紹介しながら、宝塚の精神にふれ、女性だけの集団が日本の伝統に根ざしつつ革新をも生み続けてきた秘密を明かして行きます。
とても楽しいエピソードを著書の最初から最後まで抜かすことなくご紹介していますので、楽しんでお読みください。

(すでにたくさんのエピソードがこちらの「宝塚あるある」にアップされています。)

https://petipa.jp/category/aruaru/

桐生のぼる著書「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」より

第1章 男役と娘役はどのように決まるの?

「女性が演じる男性」と「女性が演じる男性の相手を演じる女性」。
男役と娘役が演じる舞台は、多くのファンの心をとらえて離しません。
では、音楽学校に入学後、男役になるのか、娘役になるのかはどのように決まる
のでしょうか。
これは、宝塚に関する質問の中でも特に多いものです。

人生の夢は自分で勝ち取る!

結論から先にお話しましょう。自分で決めるのです。
ほとんどの人が「あなたは男役」と劇団から決められると思っているようですが、
そうではありません。あくまでも自分の意志なのです。
とはいうものの、音楽学校に入学して同期生を見渡したとき、ずば抜けて背が高い
人が娘役を希望したり、歌が得意でキーがハイソプラノなのに男役を目指したりする
人はあまりいません。
「性別」を決める目安は、背の高さとその人の持ち味です。
私の時代でしたら背の高さの境目が一六三センチくらいでした。もちろんそれより
も背の低い男役もいましたし、一六五センチくらいの大きめの娘役もいました。
音楽学校に入ってすぐの演劇の授業では、すでに男役と娘役に別れてレッスンをし
ますので、私のように一六三センチという微妙な身長の人は悩みます。
しかし、自分の人生です。
「夢」を実現するために入学したのですから、背が少々低くても「男役でいきたい!」
と思えばそれで決定です。
あとは努力のみです。

念願の男役に。しかし身長がコンプレックスに
「宝塚のトップスターになりたい!」
憧れて入学した私の選択はもちろん男役でした。
念願の男役となり、新人のころからいい役をいただいたり、 歌のソロを歌ったり、レ
コードを出したりしていた私は、とても恵まれていました。
オスカルを演じたときは、自分の持ち味にピタッとくる役をいただけて本当にうれ
しかったものです。
ところが身長は一六三センチ。宝塚の男役の中ではかなり低く、とにかく私という
存在自体がコンプレックスという時期さえありました。
しかも配属された星組のトッ
プスターは鳳蘭さん。鳳さんは長身で、回りの男役もほかの組より群を抜いて背の高
い上級生ばかりでした。
私は少しでも大きく見せたいと、公演では靴の中に、上げ底のためのヒールを入れ
てダンスを踊っていたのでした。毎日毎日。
「私のコンプレックスは背が低いこと。何とかしたい!」と正直にいうことができた
らどれほど楽だったでしょう。
しかしコンプレックスを心の奥に深くしまいこんで、がんばり続けていました。

私は私の道を歩きたい! そして、娘役に

やがて自分自身と向き合い、将来のことを考えるようになっていきました。これか
ら先、まだまだ宝塚で活躍したいし、そのためには娘役に転向するのが最善なのでは
ないだろうかと。
しかし、それは私一人では決めることができない問題だったのです。なぜなら、ファ
ンは「男役の桐生のぼる」のファンだったのですから。
でも私は私の道を歩きたい!  心を決めて劇団にお願いに行き、娘役への転向が決
まりました。
「ファンが一人もいなくなっても仕方ない」。そう覚悟していたのに、何と男役のとき
よりもさらにファンの人数は増えていったのです!
自分を正直に見つめることは本当に難しいことです。でも恐れずに直視して、進ん
でいけば道は開かれるということを学びました。

人生にはそういう転機が必ずあると思いますし、そのあと、必ず信じる道が開いて
いくと確信しています。

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宝塚歌劇団100年の「あるある」に学ぶ組織論

元宝塚歌劇団 桐生のぼる著書から抜粋しています。
宝塚歌劇団100年の「あるある」に学ぶ組織論として出版致しました。楽しいエピソードの一つ一つをご紹介しながら、宝塚の精神にふれ、女性だけの集団が日本の伝統に根ざしつつ革新をも生み続けてきた秘密を明かして行きます。とても楽しいエピソードを著書の最初から最後まで抜かすことなくご紹介していますので、楽しんでお読みください。

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