大きなフィナーレの羽根の秘密

(以下桐生のぼる著書「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」より)

フィナーレにトップスターが大階段に現れたとき、衣装の背中についている大き
な羽根。
あの豪華な羽根は今やトップスターの象徴になっていますが、そもそもは娘役の
ものだったのです。

羽根はどのように衣装についているの

今やトップスターの代名詞のようにいわれる大きな羽根ですが、もともとは娘役が
フィナーレでドレスなどにつけていました。
一九六〇年、芸術祭賞を受賞した『華麗なる千拍子』の中で、当時圧倒的な人気を
誇ったトップスター寿美花代さんが、網タイツにだるま(水着やレオタードに近いデ
ザインの衣装)姿で背中に羽根をつけて出た場面はとても有名になりました。
やがて大きな羽根は、いつのころからか男役のトップスターのものになっていきま
した。

さて、大きな羽根は衣装についているように見えますが、実はランドセルのように
背負っているのです。衣装の上から手を通して羽根だけ一番最後に背負います。
客席からは衣装についているかのように見えるようにと、生地や飾りなどに工夫を
懲らしているというわけです。

ファン、そして同じ舞台に出ている生徒たちすべての憧れでもある羽根は、以前よ
りもどんどんと大きくなって、今では重さが二十キロ近くあると聞きます。
その状態でにこやかに歌いながら、足もとを向くこともなく大階段を下りて銀橋ま
で出てくるのですから、トップスターは本当に体力も必要なんです。

キラキラを断った安奈淳さん

『ベルばら』第一期黄金時代のトップスターは、それぞれに個性的でした。
衣装にまつわる面白いエピソードも残っています。
トップスターには公演中は必ず専属の衣装部さんが一人つきます。衣装部さんもそ
のスターが舞台でステキに輝いてもらうために、まさに「命をかけている」ので羽根
もアクセサリーもちょっとでも豪華にといろいろ工夫します。
トップスターに限っては、衣装部さんが衣装にもともとついている飾りだけでは物
足りないと判断すると、その上からスパンコールやブローチをつけ足したりもするの
です。

その衣装部さんがあるとき、少し悲しそうな声でつぶやいていました。
「どのスターも『豪華にして。キラキラつけて』っていってくれるのに、オトミさん
(安奈淳さん)だけは、『これいらない、あれも取ってしまって』というの」と。
これはとても安奈さんらしいエピソードです。安奈さんはシンプルなデザインが好
きだったからなのです。
豪華につけるのも個性。
逆に引き算をしてシンプルにしていくのも個性。
この話を聞いて、より豪華にという傾向の中で自分の個性を貫く姿勢に心から尊敬
したものです。
でも安奈さんの専属の衣装部さんにしてみれば、豪華にキラキラとつけてあげたかっ
たのでしょうね。

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次回はフィナーレで全員が手に持っているブーケのような持ち物のお話です。お楽しみに。

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